大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋地方裁判所 昭和59年(ワ)1185号 判決

主文

一  被告石坂優、同井野川俊正、同北山弘及び被告小島商事株式会社は、原告に対し、各自金三四二万九五〇〇円及びこれに対する昭和五九年五月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の被告石坂優、同井野川俊正、同北山弘及び被告小島商事株式会社に対するその余の請求並びに被告小島逸平に対する請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、原告に生じた分の二分の一、被告石坂優、同井野川俊正、同北山弘及び同小島商事株式会社に生じた分の二分の一と被告小島逸平に生じた分を原告の負担とし、原告に生じたその余の分と被告石坂優、同井野川俊正、同北山弘及び同小島商事株式会社に生じたその余の分を右被告らの負担とする。

四  この判決は、第一、三項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは原告に対し、各自金八〇五万九〇〇〇円及びこれに対する昭和五九年五月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  当事者

(一)被告小島商事株式会社(以下「被告会社」という。)は、商品取引所法の適用を受ける商品取引所の市場における上場商品の売買及び売買取引の受託業務等を業とする株式会社である。

後記(二)記載の本件取引当時、被告小島逸平(以下「被告小島」という。)は被告会社の代表取締役であり、同北山弘(以下「被告北山」という。)は被告会社名古屋支社の営業部長であり、同井野川俊正(以下「被告井野川」という。)及び同石坂優(以下「被告石坂」という。)は被告会社名古屋支社の営業部に属する営業担当者である。

(二) 原告は、昭和三六年栃木県から脊髄性小児麻痺による右下肢機能障害を理由に身体障害者五級の認定をうけ、昭和四六年三月千葉工業大学電子工学科を卒業した後、冷暖房設備、住宅建築等を目的とする株式会社澤商(以下「澤商」という。)に勤務し、従来まったく商品取引に関与したことはなく商品取引の知識もなかったところ、以下のような被告会社の従業員の勧誘を受けて、別表(一)のとおり昭和五八年八月四日から同年一〇月一五日までの間に輸入大豆の先物取引(以下「大阪穀物の先物取引」という。)を、別表(二)のとおり昭和五八年八月八日から同年一〇月二〇日までの間に輸入精糖の先物取引(以下「大阪砂糖の先物取引」という。)をそれぞれ委託した(以下、両者をあわせて「本件先物取引」ということがある。)。

2  本件先物取引の具体的経過は以下のとおりである(以下、年月日を示す場合、「昭和五八年」については原則としてその記載を省略する。)。

(一) 被告会社の従業員の勧誘から契約締結まで

(1) 昭和五八年七月二九日、被告石坂は、原告とは一面識もなく何人の紹介もないのにもかかわらず、突然、原告の勤務先である澤商に原告を名指しで架電し、「今、設備業者関係の方に大豆の投資について説明に回っている。明日伺いたい。」と述べた。

原告は、投資には特別興味がなかったので、「興味もないからきてもらわなくてもよい。」と言って、被告石坂の右面会の申込みを断った。

(2) しかし、翌七月三〇日、被告石坂が原告に面会するため澤商を訪れたので、原告は被告石坂に会ったところ、同被告は原告に対し、「今年は熱波や異常気象で大豆が減産したため値段が高騰している。今がチャンスです。自分の客で先週だけで倍以上儲けた人がいる。」などと約二〇分間位勧誘をしたが、原告がこれを相手にしなかったので、被告石坂はそのまま帰った。

(3) 八月三日の昼ごろ、被告石坂から原告に対し電話があり、被告石坂は「何とか七〇万円用意できませんか。」と言ったが、原告がこれを断ると、次に被告石坂の上司と思われる者がでてきて「七〇万円が用意できなければ、半分の三五万円でも何とかなりませんか。」と述べた。

しかし、原告にはその気がなかったので、約五分間話をして電話を切った。

(4) 右同日の夕方、被告北山から原告に対し電話があり、被告北山は「石坂は若いがよくやっている。あいつはいいやつだから、ひとつ、投資の勉強をすると思って一緒にやってもらえないか。」などと約四、五〇分間、原告に対する勧誘をした後、「一度会って話がしたい。今から行きます。」と言って電話を切った。

原告としては、右勧誘が余りにも執拗だったので、もし会って話を聞かなければ、これからも、訪問、架電が繰り返されるのではないかと思い、結局会う約束をした。

(5) その後、原告は被告北山及び同井野川と澤商の近くの喫茶店で会ったが、同被告らは、当初被告会社や千葉県の話など雑談をしていたが、その後大豆取引の勧誘を始めたので、原告は「専門外のことで、資料も情報を得る手段もないのでやりようがない。」と言って断った。

すると、被告北山は「一切を任せてもらえば、うちでうまくやるから大丈夫だ。」と断言するので、結局、原告は、被告会社に金を預けるのも銀行や郵便局に預けるのも同じだと考え、また被告らも一生懸命やってくれるだろうと思えたので、右被告らの言葉を信じて、被告らに全面的に任せる気持ちとなり、いわれるままに承諾書等に署名押印をした。

その際、被告北山は「どうです。二〇枚、一四〇万円できませんか。」と一四〇万円を都合するように述べたので、原告は被告石坂の話とは違うとは思ったが、「何もわからないので、よろしくお願いします。」とのみ答えた。

(二)取引の開始から終了まで(番号は別表(一)及び(二)の各建玉番号)

八月四日

朝、被告北山から原告に対し電話があり、被告北山が「一四〇万円では少ないから七〇万円の五倍の三五〇万円を用意してくれ。その方が運用しやすい。」と述べたので、原告はいわれるまま三五〇万円を準備し、午後一時ごろ、澤商の近くの喫茶店において、被告井野川に対し、三五〇万円を手渡した。その際、被告北山が電話で「午後になり逃げておきましたから。」と述べたので、原告は「よろしくお願いします。」とのみいった。

ところが、この日、被告北山は、原告に無断で、大豆1(三〇枚)を買建して即日処分し(ころがし)、同2-1(一〇枚)、同2-2(一〇枚)、同3(一〇枚)を買建てしている。

八月六日

被告北山は原告に無断で大豆4(一〇枚)を買建てしている。

八月八日

夕方、被告北山から原告に対し電話で、「砂糖がチャンスだから大豆から一〇枚移しました。」との報告があり、原告は大変驚いた。

この日、大豆は値上り傾向にあるのにかかわらず、手数料を稼ぐ目的で、五一三〇円で買建てした大豆4(一〇枚)を五二一〇円で処分し、同5(一〇枚)を五二〇〇円で買建てした(無意味な買直しによるころがし。)。

また、被告北山は原告に無断で砂糖1(一〇枚)を買建てした。

八月九日

被告北山は、原告に無断で手数料を稼ぐ目的をもって、大豆6(一〇枚)を買建てし、前記砂糖1(一〇枚)を僅か一日で処分した。

八月一〇日

午前中、被告北山から「大豆の利益金を渡す。」といわれ、原告は、昼休みに澤商の近くの喫茶店において、被告北山から現金二七万五〇〇〇円を受け取った。

その際、原告は、砂糖取引の承諾書(〈証拠〉)を八月八日付けで書かされた。

八月一一日

午前中、被告北山から原告に対し電話があり、被告北山は「砂糖が上がるので六〇万円用意して下さい。」と述べたが、具体的な玉の建落の話はまったくなかった。

しかるに、被告北山は、原告に無断で、砂糖2(一〇枚)を二一五円五〇銭で買建てした。

この砂糖2は、一〇月一四日に二〇六円八〇銭で処分されるまで評価損がでているにもかかわらず、二か月以上にわたって放置され(因果玉の放置。)、結局八六万九〇〇〇円(うち手数料八万六〇〇〇円)の損をだした。

八月一二日

午前中、被告北山から原告に対し、「昨日の六〇万円は準備できたか。」と問い合わせがあったので、原告は「一二時三〇分に手渡す。」と述べた。

正午過ぎに、被告会社の従業員である訴外森戸健に用意した六〇万円を渡すと、同人は「砂糖の分が六〇万円足りない。砂糖の値動きがおかしかったので、もし値下りしたときは、損をしないように更に六〇万円逆の方へ買った。いわば保険のようなものだ。」と述べた。

その直後、被告北山から原告に対し、「既に取引してしまったから夕方までなんとかしてくれ。」と電話があり、原告は仕方なく、夕方澤商の前で車の中で待っていた被告北山に六〇万円を渡した。

すなわち、この日被告北山は原告に無断で、前日の砂糖2(一〇枚)の買建玉に対し砂糖3(一〇枚)を売建てしたものである(無断の両建玉。)。

この日、初めて両建が行われたが、被告北山は「保険をかけるようなものだ。保険をかけると相場が逆の方向に行ってもプラスとマイナスで損にはならない。」といったのみで、同人から両建の仕組とか処理の仕方、両健が取引所指示事項によれば外務員から委託者へは勧めてはならないことになっている等という説明はなかった。

八月一五日

被告北山は、原告に無断で大豆6(一〇枚)を処分し、大豆7(一〇枚)を売建てした。

八月一六日

被告北山は、原告に無断で、五一九〇円で買建した大豆3(一〇枚)を五二三〇円で、五二〇〇円で買建した大豆5(一〇枚)を五二三〇円で処分した。

その結果、大豆3の差金一〇万円と大豆5の差金七万五〇〇〇円は、それぞれ七万五〇〇〇円の手数料でほぼ帳消しになった。

大豆は三〇円以上の値動きがなければいくら益がでたとしても手数料の方がこの益を上回ってしまうのである(手数料抜け)。

八月一七日

被告北山は原告に無断で大豆8(一〇枚)を買建てした。

これは大豆7(一〇枚)の売建玉と両建になっているが、大豆7は一二万五〇〇〇円(うち手数料は七万五〇〇〇円)、大豆8は二〇万円(うち手数料は七万五〇〇〇円)、それぞれ、損金をだして処分されている。

すなわち、両建をしていながらいずれも損金をだしているのである。

八月一八日

被告北山は、原告に無断で手数料稼ぎの目的をもって、大豆7(一〇枚)を僅か三日で処分した。

八月二〇日

午前中、被告北山から原告に対し、「大豆の値が下がった。ここは買いましょう。」との電話があったが、原告の方から何の指示もしなかった。

ところが、被告北山は大豆9(一〇枚)を買建てするとともに、砂糖3を仕切った。

八月二三日

午前中、被告北山から原告に対し、「大豆はストップ高です。底をついたので余裕があれば買いたいですね。七〇万円用意できませんか。」との電話があり、原告は抗しきれず、「七〇万円ぐらいなら何とかなります。」と答えた。

この日被告北山は、原告に無断で、砂糖4(一〇枚)、同5(二〇枚)を買建している。

八月二四日

夕方、原告は被告北山に七〇万円を手渡した。

八月二五日

午前中、被告北山から原告に対し、「大豆は思ったほど値上りしないので売りましょう。」との電話があり、それに対し原告は「もう少しそのままにして下さい。」と答えたのにかかわらず、被告北山は原告に無断で大豆2-1、同9を処分した。

また、この日、砂糖は値上り傾向にあるのにかかわらず、被告北山は手数料稼ぎの目的で、二一〇円八〇銭で買建てした砂糖5をわずか二日で二一一円九〇銭で処分し、砂糖6(一〇枚)を二一〇円八〇銭で、砂糖7(一〇枚)を二一二円九〇銭で建てた(無意味な買直し)。

八月二六日

午前中、被告北山から「大豆は値上りしない。売った方がよい。」といわれ、原告は結局大豆8を処分させられた。

そして、その日被告北山は、原告に無断で、大豆10(一〇枚)を売建て(大豆3に対する両建)、砂糖8(二〇枚)を買建て、砂糖4を処分した。

八月二七日

午後、原告は被告北山に対し、「よくわからないので、今後新規の売買は差し控えて欲しい。」と依頼した。

八月二九日

被告北山は原告に無断で大豆2-2を処分した。

八月三〇日

午後、被告北山から原告に対し、「砂糖は九月一〇〇万ぐらいとれる。大豆は様子を見ましょう。」との電話があったが、具体的な取引の話はなかった。

この日被告北山は、原告に無断で砂糖6を僅か五日で、同8を僅か四日で処分し、砂糖9(三〇枚)を買建した。

八月三一日

被告北山は、原告に無断で砂糖6を六日で処分し、同10(一〇枚)を二一六円四〇銭で買建したが、この玉は評価損をだしたまま、長期間放置され(因果玉の放置)、結局、原告代理人岩本弁護士(以下単に「原告代理人」という。)の指示によってようやく一〇月二〇日に二〇五円八〇銭で処分され、一〇四万円の損失を計上することとなった。

九月七日

午後、被告北山から「砂糖の様子がおかしいので少し損がでるが処分する。」との電話があり、砂糖9は僅か七日間で処分された。

また、被告北山は原告に無断で大豆11(一〇枚)を売建した。

九月八日

午後六時三〇分ごろ、被告北山は澤商を訪れ、「今日、砂糖二〇枚、大豆二〇枚を新規に売っておいた。」と述べた。

すなわち、この日、被告北山は原告に無断で、かつ手数料稼ぎの目的で、大豆12(一〇枚)、同13(一〇枚)を売建し、砂糖11(二〇枚)を二一四円四〇銭で売建し即日二一三円二〇銭で処分し(益が二一万六〇〇〇円でたのに手数料で一七万二〇〇〇円もとられた。)砂糖12-1(一〇枚)、同12-2(一〇枚)を売建した。

なお、砂糖11、同12-1、同12-2は砂糖2、同10に対する両建玉であるが、これらは原告にまったく知らされていなかった。

九月九日

午後、被告北山から原告に対し、「アメリカ農務省の発表によると、大豆が減産になり値が高騰し、売建玉の方法もあるが、いずれにしても金がいる。追証を払わないと取引が続けられないばかりか、それまでに払い込んである証拠金も助からなくなる。」との電話があった。

九月一二日

午後、被告北山から原告に対し、「大豆はストップ高が来るおそれなので、砂糖を仕切って一〇枚買いを建てておきました。あと二〇枚分一四〇万円用意して下さい。」との電話があったが、原告はとても直ぐには準備できないので、「明日までに何とかする。」と答えた。

この日砂糖は値下がり傾向にあったから、そのまま様子を見ればよかったにもかかわらず、被告北山は、原告に無断で、砂糖12-1、同12-2を僅か四日で処分し(砂糖12-1は一一万七〇〇〇円、同12-2は二四万三〇〇〇円の、それぞれ益がでたが、手数料を各八万六〇〇〇円ずつとられた。)、大豆14(一〇枚)、同15(二〇枚)を買建した。

なお、大豆14、同15は大豆10、同12、同13に対する両建であるが、これについても原告にはまったく知らされていなかった。

九月一三日

夕方、原告は、被告北山に対し一四〇万円を手渡したが、砂糖取引の話はなかった。

しかるに、この日被告北山は原告に無断で砂糖14(一〇枚)を買建した。

九月一四日

午前中、被告北山から原告に対し、「砂糖は底をついたようである。」という電話があったが、具体的な取引の話はなかった。

この日大豆は値上り傾向にあるのだからそのまま様子をみればよかったのに、被告北山は、原告に無断で、かつ手数料を稼ぐ目的で、五四三〇円で買建した大豆14を五五九〇円で、五三七〇円で買建した大豆15を五四五〇円で、それぞれ僅か二日で処分し、大豆16(一〇枚)を五四六〇円で、大豆17(二〇枚)を五五七〇円でそれぞれ買建した。

また、この日被告北山は原告に無断で砂糖14を僅か一日で二一一円四〇銭で処分し、砂糖15(一〇枚)を二一四円八〇銭で買建した(無意味な買直し。これだけで被告会社は少なくとも合計三一万一〇〇〇円の手数料をまったく正当な理由なく取得している。)。

九月一六日

午前中、被告北山から原告に対し、「砂糖が下がる様子なので処分する。」との電話があり、砂糖13が僅か四日、砂糖15が僅か二日で、それぞれ処分された。

そして、この日被告北山は、原告に無断で、砂糖16(一〇枚)を二〇八円で売建し、即日二〇七円九〇銭で処分した(九〇〇〇円の益がでたが、八万六〇〇〇円の手数料をとられて損勘定になった。)。

九月一七日

被告北山は、原告に無断で、手数料稼ぎの目的をもって、二〇九円四〇銭で売建した砂糖17を僅か一日で二〇八円六〇銭で処分した(七万二〇〇〇円の益がでたが、八万六〇〇〇円の手数料をとられて損勘定になった。)。

なお、砂糖16、同17は砂糖2、同10に対する両建であるが、原告にはなんらその説明はなされていないし、いわゆる手数料不抜けの説明もされていない。

九月一九日

被告北山は原告に無断で砂糖18(一〇枚)を売建した。

九月二〇日

被告北山は原告に無断で、手数料稼ぎの目的をもって、砂糖18を僅か一日で処分した。

九月二二日

午前中、被告北山から原告に対し、「大豆は暴落するので買いを処分する。」との電話があったので、原告は売ったら買わずに様子を見るように頼んだ。

そこで、被告北山は大豆16、同17を処分した。

九月二六日

被告北山は、同月二二日の原告の指示に反し、大豆18(一〇枚)、同19(二〇枚)の買いを建てた。

しかも、大豆18は五四六〇円で買建の後、即日五四九〇円で処分されたが、その益七万五〇〇〇円は七万五〇〇〇円の手数料ですべて相殺されてしまっており、大豆18、同19は大豆10、同12、同13に対する両建玉であるが、その説明は原告に対しまったくなされていない。

さらに、大豆20は五六〇〇円で買建された後、評価損をだしながらそのまま放置され、原告代理人の指示によって処分された一〇月二〇日には五二二〇円であったため、一〇二万五〇〇〇円(うち七万五〇〇〇円は手数料)の損失が計上された。

また、この日、被告北山は原告に無断で砂糖19(一〇枚)を買建した。

九月二七日

午後、被告北山から大豆が安い旨の電話があったが、特に取引の話はなかった。

しかるに、被告北山は原告に無断で、手数料稼ぎの目的をもって、大豆19を僅か一日で処分し、大豆21を売建している。

九月二八日

午後、被告北山から原告に対し、砂糖はもう底をついた旨の電話があったが、取引の話はなかった。

しかるに、被告北山は原告に無断で大豆22(二〇枚)を買建している。

この玉は、五四五〇円で買建された後、評価損をだしながら放置され(因果玉の放置)、原告代理人の指示によって処分された一〇月二〇日には五一五〇円であったため、一六五万円(うち手数料が一五万円。)の損失を計上することとなった。

九月三〇日

被告北山は原告に無断で、大豆12を処分し、砂糖19を僅か四日で処分し、砂糖20(二〇枚)を買建した。

一〇月五日

被告北山は原告に無断で、手数料稼ぎの目的をもって、大豆23(一〇枚)を五二一〇円で買建し、即日五二四〇円で処分し(益が七万五〇〇〇円でたが、同額の手数料で相殺されてしまった。)、また、その日、大豆24(一〇枚)を売建した(同時両建)。

一〇月六日

午後、被告北山から原告に対し、証拠金が七〇万円から八〇万円に増額されたことと損金の不足分として合計一二〇万円が必要であることを内容とする電話があったが、取引の話はなかった。

しかるに、被告北山は、原告に無断で、手数料稼ぎの目的をもって、大豆24を僅か一日で売り買い同値で処分し(したがって、手数料七万五〇〇〇円が損になる。)、さらに、大豆25(一〇枚)を買建した。

一〇月七日

被告北山は原告に無断で、大豆26(一〇枚)、同27(一〇枚)を買建し、さらにこの日、同28(一〇枚)の売建をした(同時両建)。

一〇月一一日

午後四時三〇分ごろ、原告は被告北山に対し、一二〇万円を渡したが、取引の話はなかった。

しかるに、被告北山は、原告に無断で、大豆28を僅か四日で処分した。

一〇月一二日

被告北山は、原告に無断で、手数料稼ぎの目的をもって、大豆25、同26、同27を処分し、同29-1(一〇枚)、同29-2(一〇枚)、同30(一〇枚)を売建したり(これらは大豆20、同22との間で両建されたもの)、砂糖20を処分し、同21(二〇枚)を売建し、同22(一〇枚)を二一一円六〇銭で売建し即日二一一円四〇銭で処分した(砂糖22では益が一万八〇〇〇円でたが、八万六〇〇〇円の手数料のため損勘定となった。)。

一〇月一三日

被告北山は、原告に無断で、砂糖21を処分し、同23(一〇枚)の売建をした。

一〇月一四日

被告北山は、原告に無断で、大豆30を僅か二日で処分し、さらに同31(一〇枚)を買建した。

一〇月一五日

被告北山は、原告に無断で、大豆29-1を僅か三日で処分し、五三二〇円で買建した大豆31を僅か一日で五三二〇円で処分し(益が二万五〇〇〇円でたが、七万五〇〇〇円の手数料のため損勘定となった。)、砂糖23を僅か二日で処分した。

一〇月一九日

被告北山は、原告の意思に反し、砂糖24(一〇枚)を売建した。

しかし、同日、原告代理人から原告の全建玉の処分の指示がされた。

一〇月二〇日

右指示によって、原告の全建玉が処分された。

3  勧誘行為の違法性

(一) 商品取引については顧客保護のため、商品取引所法九四条(以下「法」という。)、全国商品取引連合会の定める取引所指示事項(以下「指示事項」という。)又は全国商品取引員大会(昭和五三年三月二九日)における新規委託者保護管理協定(以下「協定」という。)に基づく被告会社の新規委託者保護管理規則(以下「規則」ということがある。)によって、商品取引員の受託業務に関して次の事項が禁止事項等として定められているところ、前記2記載の被告らの勧誘行為及びその取引内容はこれらに違反している。

(1) 無差別電話勧誘(指示事項)

被告石坂は、一面識もない原告に対し、勤務先に架電し、本件事件の端緒をつくった。

(2) 不適格者の勧誘(指示事項)

原告は、身体障害者五級に該当するものであり、かつ商品取引をする意思がまったくなかった者であるにもかかわらず、被告石坂、同井野川及び同北山は、原告に対し、執拗な勧誘を行った。

(3) 投機性の説明の欠如(指示事項)

被告石坂及び同北山は、原告に対し、「投資の勉強をすると思ってやってもらえないか。」と申し向けたり、被告石坂、同井野川及び同北山は、原告に対し追証拠金の説明をまったくせずに勧誘を行った。

(4) 断定的判断の提供(法)

被告石坂は原告に対し、「今年は熱波や異常気象で大豆が減産したため値段が高騰している。今がチャンスです。自分の客で先週だけで倍以上儲けた人がいる。」と申し向けて勧誘を行った。

(5) 新規委託者からの大量委託(規則)

被告石坂、同井野川及び同北山は、原告に対し、最高一四〇枚という大量の取引を積極的に勧誘して行わせた。

(6) 無断売買ないし一任売買(法)

被告石坂、同井野川及び同北山は、原告に対し、先物取引に関する十分な説明をしないまま本件取引を行ったのであるから、本件取引は原告の意思に基づいてされたとはいえず、無断売買ないし一任売買である。

(7) 両建玉(指示事項)

ア 同時両建

被告北山は、一〇月五日、大豆23の買建と同24の売建を同時に、同月七日、大豆26と同27の買建と同28の売建を同時に、それぞれ建玉している。

イ 因果玉の放置

被告北山は、大豆20、同22について、値下り傾向にあるにもかかわらず、かなり長期にわたって放置している。右大豆20、同22については、大豆21、同24、同28、同29-1・2、同30の売建玉を両建しているが、これらの売建玉についても、合計六二万円(うち手数料四五万円)の損失をだして終っており、まったく両建の意味をなしていない。

被告北山は、砂糖2、同10について、値下り傾向にあるにもかかわらず、かなり長期にわたって放置している。右砂糖2、同10については、砂糖3、同11、同12-1・2、同16、同17、同18、同21、同22、同23、同24等の売建玉を両建しているが、合計一九〇万九〇〇〇円(うち手数料一七万二〇〇〇円)の損失をだしているのに対し、右両建玉による利益は合計八一万円(手数料一〇三万二〇〇〇円を控除したもの)にすぎず、両建の効果はあがっていない。

ウ 常時両建

被告北山は、大豆については、八月一五日から一八日まで、同月二六日から二九日まで、九月一二日から二二日まで、砂糖については、八月一二日から二〇日まで、九月八日から一二日まで、九月一六日から一七日まで、九月一九日から二〇日まで、一〇月一二日から一五日まで、一〇月一五日から二〇日まで、何らかの形で、両建を続けている。

(8) 無意味な反復売買(ころがし)

(指示事項)

本件先物取引は、前記2記載のとおり、昭和五八年八月四日に開始され同年一〇月二〇日に終了しているところ、その間に、大豆は六四回、砂糖は五七回、合計一二一回にわたる頻繁な建て落ちがされているが、その委託手数料は合計五四一万九〇〇〇円であり、手数料と損金の合計額である六〇八万一〇〇〇円の約八九パーセントにあたり、無意味な反復売買があったことは明らかである。

(二) 詐欺行為

被告石坂、同井野川及び同北山は、共謀して本件先物取引の勧誘に際し、被告石坂において原告に対し、「今年は熱波や異常気象で大豆が減産したため値段が高騰している。今がチャンスです。自分の客で先週だけで倍以上儲けた人がいる。」と虚偽の事実を申し向け、原告をその旨誤信させて本件先物取引を行わせたものであり、これは詐欺行為にあたり違法である。

4  被告らの責任

(一) 被告らは、いわば会社ぐるみで、前記3記載の違法行為を行い、故意により後記5記載の損害を発生させたものであるから、それぞれ、民法七〇九条、七一九条一項によって不法行為の損害賠償責任を負う。

(二) 被告会社は、被告石坂、同井野川及び同北山の使用者であり、右従業員らが会社の事業である商品先物取引の外務勧誘行為について、原告に対し、前記3記載の不法行為により後記5記載の損害を与えたものであるから、右損害を賠償する責任がある。

(三) 被告小島は、被告会社代表取締役として、被告石坂、同井野川及び同北山らを選任監督する地位にあったから民法七一五条二項により原告の損害を賠償する責任を負う。

(四) 被告会社については(一)(二)を、被告小島については(一)(三)を、それぞれ選択的に主張する。

5  原告の損害

原告は、被告らの不法行為によって、次のとおりの損害を被った。

(一) 財産的損害 六〇五万九〇〇〇円

(1) 原告は、被告会社に対し、本件取引の証拠金として、左記のとおり合計八〇〇万円を交付した。

八月四日 三五〇万円

八月一一日 六〇万円

八月一三日 六〇万円

八月二三日 七〇万円

九月一二日 一四〇万円

一〇月七日 一二〇万円

(2) しかし、他方、原告は、被告会社から、左記のとおり合計一九四万一〇〇〇円の返還を受けた。

八月一〇日   二七万五〇〇〇円

一〇月二一日 一六六万六〇〇〇円

(3) したがって、その差額六〇五万九〇〇〇円が原告の被った財産的損害である。

(二) 精神的損害 一〇〇万円

原告が本件不法行為によって被った精神的苦痛を金銭で慰謝するならば、一〇〇万円をもって相当とする。

(三) 弁護士費用 一〇〇万円

6  よって、原告は、不法行為による損害賠償請求権に基づき、被告らに対し、八〇五万九〇〇〇円及びこれに対する不法行為の後でありかつ被告らに対する本件訴状送達の日の翌日以降である昭和五九年五月一三日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を連帯して支払うことを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1(一)の事実は認める

同1(二)のうち、原告が昭和四六年三月千葉工業大学電子工学科を卒業した後澤商に勤務していること、原告が被告会社に対し本件先物取引を委託したことは認めるが、原告が昭和三六年栃木県から脊髄性小児麻痺による右下肢機能障害との理由で身体障害者五級の認定をうけていること、原告が従来まったく商品取引に関与したことはなかったことは知らず、その余の事実は否認する。

2(一)  請求原因2(一)(1)のうち、昭和五八年七月二九日、被告石坂が澤商にいる原告に対し架電し大豆の取引について説明したことは認めるが、その余の事実は否認する。原告から被告石坂に対する返事は、明日(三〇日)土曜日の昼頃なら時間的余裕があるので澤商に来て取引の説明をして欲しいとのことであった。

同2(一)(2)のうち、七月三〇日、被告石坂が澤商にいる原告を訪ねたこと、被告石坂が原告に対し大豆の相場が異常気象で値上がり傾向にあることを説明したことは認めるが、その余の事実は否認する。面会時間は約四〇分であり、その際被告石坂は原告に対し商品先物取引の仕組みについても説明をしている。

同2(一)(3)の事実はすべて否認する。ただし、八月二日の午前中、被告井野川が原告に対し架電し、挨拶方々商品取引の動向について説明したことはある。

同2(一)(4)のうち、被告北山が原告に架電し面談を申し込んだことは認めるが、電話をしたのは八月二日であり、その余の事実は否認する。

同2(一)(5)のうち、被告北山と同井野川が原告と澤商の近くの喫茶店で会い、被告会社や千葉県の話など雑談をし、さらに大豆取引の説明をしたこと、原告がその場で承諾書等に署名押印したことは認めるが、その余の事実は否認する。

(二)  請求原因2(二)について

八月四日

朝、被告北山が原告に電話したこと、原告主張の建玉がされていることは認めるが、原告が三五〇万円を手渡した相手は被告井野川であり、その余の事実は否認する。

八月六日

原告主張の建玉がされたことは認めるが、その余の事実は否認する。

八月八日

原告主張の建玉がされたことは認めるが、その余の事実は否認する。被告北山は、八月二日、原告と面談した際、取引商品は大豆のみでなく精糖、生糸その他の商品があることを説明しているし、八月六日、原告と電話で話した際も、大阪精糖の値動き状況等について説明している。また、精糖の取引については、原告の要望に基づくものである。

八月九日

原告主張の建玉がされたことは認めるが、その余の事実は否認する。

八月一〇日

被告北山が原告に対し原告主張の利益金を交付したこと、原告が砂糖取引の承諾書を八月八日付けで書いたことは認めるが、その余の事実は否認する。被告北山が原告に対し利益金を交付した場所は原告の指示による澤商の近くの路上であって、そこに駐車してあった被告北山運転の自動車の中であり、砂糖取引の承諾書を八月八日付けで作成したのは原告の要望によるものである。

八月一一日

被告北山が、原告主張の日時ころ、原告に対し電話したこと、その際、原告に六〇万円を納金してほしい旨伝えたこと、原告主張の建玉が手仕舞までに二か月以上の期間が経っていること、その手仕舞によって八六万九〇〇〇円の損金がでていることは認めるが、その余の事実は否認する。被告北山が原告に対し六〇万円を請求したのは原告が砂糖2の買健玉を指示したためであって、原告主張の建玉が二か月以上手仕舞されていないのは原告の指示がなかったからであり、損金がでたのは、一〇月一九日に、原告代理人から一括手仕舞の指示があった結果である。

八月一二日

原告主張の日時ごろ、被告北山が原告に対し電話をし、その際、被告北山が保証金六〇万円の用意ができたかを確認したこと、原告が午後一二時三〇分ごろに右金員を手渡しできると述べたこと、右時刻ごろ、原告が訴外森戸健に六〇万円を渡したこと、さらに、夕方、原告が被告北山に対し澤商の近くの路上で駐車中の車の中で六〇万円を渡したこと、この日初めて両建されたことは認めるが、その余の事実は否認する。被告北山は原告に対し、午前九時三〇分ごろ架電し、状況報告するとともに前日の建玉の証拠金について確認し、その後、午前一〇時三〇分ごろにも架電し、精糖がストップ安状態になっていることを伝えたが、その際、原告は両建することでしばらく様子をみたいがどう思うかと尋ねたので、被告北山はそれも一策であると答え、原告は砂糖3の売建を指示したのであり、原告が被告北山に渡した六〇万円はその証拠金である。

また、両建のことについては、被告北山と同井野川が、八月二日に原告と面談した際に詳しく説明している。

八月一五日

原告主張の建玉がされたことは認めるが、その余の事実は否認する。

八月一六日

原告主張の建玉がされたこと、原告主張の損が発生し、手数料を要したことは認めるが、その余の事実は否認する。

八月一七日

原告主張の建玉がされたこと、原告主張の損が発生し、手数料を要したことは認めるが、その余の事実は否認する。八月一五日から八月一七日までの取引については、原告はお盆休みで群馬県に帰省するので原告の方から取引についての連絡をする旨被告北山に告げていたものであり、右取引はいずれも原告から被告北山に対する指示に基づくものである。

八月一八日

原告主張の建玉がされたことは認めるが、その余の事実は否認する。

八月二〇日

原告主張の建玉がされたことは認めるが、その余の事実は否認する。

八月二三日

被告北山が原告に対し、大豆がストップ高であることを報告したこと、原告主張の建玉がされたことは認めるが、その余の事実は否認する。被告北山が大豆のストップ高を原告に報告すると、原告は八月二〇日に大豆の買建をしたのが当たったといって非常によろこび、ストップ高で大豆は取引控えとなったので、原告は、被告北山に対し、砂糖4、同5の買建をし、保証金をいくら用意したらよいかと尋ねたので、被告北山は従前の保証金の残額、銘柄別の益損金を計算して七〇万円を要する旨を告げ、それに対し、原告はそれ位なら明日には用意できる旨答えたものである。

八月二四日

認める。

八月二五日

被告北山が原告に対し電話をし、大豆はあまり値上りしないので買建玉を手仕舞してはどうかと勧めたこと、原告主張の建玉がされたことは認めるが、被告北山の電話は午後であり、その余の事実は否認する。

八月二六日

原告主張の建玉がされたことは認めるが、その余の事実は否認する。

八月二七日

否認する。ただし、原告から被告北山に対し、数度にわたり、相場がよく分からないのでしばらく様子をみたい趣旨の申出をうけたことはある。

八月二九日

原告主張の建玉がされたことは認めるが、その余の事実は否認する。

八月三〇日

原告主張の建玉がされたことは認めるが、その余の事実は否認する。

八月三一日

原告主張の建玉がされたこと、原告指摘の建玉が手仕舞によって一〇四万円の損金がでたことは認めるが、その余の事実は否認する。原告指摘の建玉が放置されていたのは原告の指示に基づくものであり、損がでたのは原告代理人の手仕舞の指示に基づくものである。

九月七日

原告主張の建玉がされたことは認めるが、その余の事実は否認する。

九月八日

原告主張の建玉がされたこと、原告主張の利益、損が発生し、手数料を要したことは認めるが、その余の事実は否認する。なお、被告北山が澤商を訪れたことはなく、原告と会う場所は常に原告が指示する澤商の近くの喫茶店か路上であった。

九月九日

否認する。

九月一二日

原告主張の建玉がされたこと、原告主張の利益、損が発生し、手数料を要したことは認めるが、その余の事実は否認する。両建については原告は知悉したうえで建玉を指示したものである。

九月一三日

原告主張の建玉がされたことは認めるが、その余の事実は否認する。

九月一四日

原告主張の建玉がされたことは認めるが、その余の事実は否認する。

九月一六日

被告北山が原告に対し電話をし、精糖が値下げ模様であることを報告したこと、原告主張の建玉がされたこと、原告主張の利益、損が発生し、手数料を要したことは認めるが、その余の事実は否認する。

九月一七日

原告主張の建玉がされたことは認めるが、その余の事実は否認する。

九月一九日

原告主張の建玉がされたことは認めるが、その余の事実は否認する。

九月二〇日

原告主張の建玉がされたことは認めるが、その余の事実は否認する。

九月二二日

原告主張の建玉がされたことは認めるが、その余の事実は否認する。

九月二六日

原告主張の建玉がされたこと、主張の利益、損が発生し、手数料を要したことは認めるが、その余の事実は否認する。

九月二七日

被告北山が原告に対し電話をし、大豆が値下り状況であることを報告したこと、原告主張の建玉がされたことは認めるが、その余の事実は否認する。

九月二八日

原告主張の建玉がされたこと、原告主張の損が発生し、手数料を要したことは認めるが、その余の事実は否認する。

九月三〇日

原告主張の建玉がされたことは認めるが、その余の事実は否認する。

一〇月五日

原告主張の建玉がされたことは認めるが、その余の事実は否認する。

一〇月六日

被告北山が原告に対し電話し、保証金が一枚当たり七万円から八万円になり損益勘定を含め一二〇万円位の不足になった旨伝えたこと、原告主張の建玉がされたこと、原告主張の手数料を要したことは認めるが、その余の事実は否認する。

一〇月七日

原告主張の建玉がされたことは認めるが、その余の事実は否認する。同一日であっても、場節を異にして相場が不安定に動く場合には、両建がされても何ら非難されるべきものではない。

一〇月一一日

原告が被告北山に対し一二〇万円を渡したこと、原告主張の建玉がされたことは認めるが、その余の事実は否認する。

一〇月一二日

原告主張の建玉がされたこと、原告主張の利益、損が発生し、手数料を要したことは認めるが、その余の事実は否認する。

一〇月一三日

原告主張の建玉がされたことは認めるが、その余の事実は否認する。

一〇月一四日

原告主張の建玉がされたことは認めるが、その余の事実は否認する。

一〇月一五日

原告主張の建玉がされたこと、原告主張の利益が発生し、手数料を要したことは認めるが、その余の事実は否認する。

一〇月一九日

原告主張の建玉がされたこと、原告代理人から全建玉の手仕舞が指示されたことは認めるが、その余の事実は否認する。

一〇月二〇日

認める。

3(一)  請求原因3(一)のうち、原告主張の法、指示事項、規則が存在することは認め、その余の事実及び主張は争う。

(二)  請求原因3(二)の事実及び主張は争う。

4  請求原因4の事実及び主張は争う。

5  請求原因5(一)(1)(2)の事実は認め、同5(一)(3)の主張は争う。同5(二)(三)の事実及び主張は争う。

三  抗弁(過失相殺)

仮に、被告らに、原告主張のような違法行為があったとしても、原告には、損害の発生、増大について、以下のような過失があったというべきであり、相当の過失相殺がなされるべきである。

1  原告は、本件先物取引を開始する以前において、被告会社以外の会社から先物取引の勧誘を再三にわたり受け、本件先物取引を始めるにあたっては、先物取引についての説明を被告北山から受けており、かつ、「商品取引委託のしおり」等の書面を交付されていたのであるから、先物取引が投機性が高くそれ相応の専門的知識も経験なしにこれを行うと時として大きな損害を被ることを容易に理解できたはずであり、原告に生じた損害の発生、増大について、重大な過失があったというべきである。

2  本件先物取引に基づく取引においては、その都度、被告会社から原告に対し、委託売買報告書および計算書を送付していたのであるから、原告としては、本件先物取引につき損害が発生するかも知れないことは容易に知りうべきであったのに、原告は何ら異議を述べなかったのであるから、原告に生じた損害の発生、増大について、重大な過失があったというべきである。

四  抗弁に対する認否

抗弁事実はすべて否認する。

本件においては次の理由から過失相殺を認めるべきではない。(1)原告は先物取引についてまったくの素人であるのに対し、被告らは先物取引に熟知した専門家であって、過失相殺を認めることは損害の公平な分担にならない。(2)本件のような詐欺的かつ故意的不法行為にあっては、加害者は被害者に損害を被らせることを意図しているのであるのに対し、被害者に過失があるか否かはいわば偶然的要因であるから、仮に被害者に過失があったとしても過失相殺を認めることは公平とはいえない。(3)本件のような詐欺的かつ故意的不法行為において過失相殺を認めると、違法行為を容認する結果となったり、加害者に違法行為によって得た利益を最終的に保有することを許容する結果となり不当である。

第三  証拠〈省略〉

理由

一  当事者

1  請求原因1(一)の事実は当事者間に争いがなく、同1(二)のうち、原告が昭和四六年三月千葉工業大学電子工学科を卒業したのち澤商に勤務していること、原告が被告会社に対し本件先物取引を委託したことは当事者間に争いがない。

2  右争いのない事実に、〈証拠〉を総合すれば、原告は、昭和三六年九月四日、栃木県から脊髄性小児麻痺による右下肢機能障害を理由に身体障害者五級の認定を受け、昭和四六年三月に千葉工業大学電子工学科を卒業したのち、冷暖房設備、住宅建築等を主たる業務とする沢田商事株式会社(現「澤商」)に勤務し、本件先物取引当時には係長の職にあったが、部下はいなかったことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

また、〈証拠〉によれば、原告は、本件先物取引を開始する以前において、米常商事など数社から電話による先物取引の勧誘をうけたことはあったが、その都度勧誘を断っておりくわしい説明を受けたことはなく、先物取引を実際に行ったのは本件先物取引が最初であり、本件先物取引開始時点において、先物取引についての知識は十分とはいえなかったことが認められ、〈証拠〉のうち、右認定に反する部分は、前記認定に供した各証拠に照らし、措信することができず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

二  本件先物取引の経緯について(被告会社の従業員の勧誘から契約締結まで)

1  昭和五八年七月二九日、被告石坂が、勤務先の澤商にいる原告に架電し、大豆の取引について説明したこと、七月三〇日、被告石坂が、澤商にいる原告を訪ね、原告に対し大豆の相場が異常気象で値上り傾向にあることを説明したこと、被告北山が原告に架電し面談を申し込んだこと(ただしその時期については争いがある)、その後、被告北山と同井野川が原告と澤商の近くの喫茶店で会い、被告会社や千葉県の話など雑談をし、さらに大豆取引の説明をしたことは、当事者間に争いがない。

2  右争いのない事実と、〈証拠〉に弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。

(一)  昭和五八年七月二九日、被告石坂が、原告とは面識もなく、何人の紹介もないのにかかわらず、澤商にいる原告に対し架電し、「今、設備業者関係の方に大豆の投資について回っているんですけど、明日説明にお伺いしたいと思いますが、いかがですか。」と述べたが、原告は「大豆の投資には興味がありませんので結構です。」、「仕事の都合で明日いるかいないかわかりませんよ。」などと答え、被告石坂の面会の申込みを断った。

(二)  七月三〇日の昼休みごろ、被告石坂は澤商にいる原告を訪ね、原告に対し、「大阪輸入大豆」と書かれた書類など(〈証拠〉)を示しながら、メキシコの火山の噴火、ペルー沖のエルニーニヨ現象、アメリカの穀倉地帯の熱波などの異常気象について説明をし、「三年前のセントヘレンズ火山の噴火のときも大幅の減産で大豆の値段が暴騰したのです。ですから、今年もまちがいなく値が上がりますよ。」、「大豆の取引は一枚という単位で行います。一枚というのは、一袋六〇キログラムの大豆二五〇袋になります。取引するには証拠金というのを払込みます。一枚当たり七万円で取引ができます。一枚では少ないので普通一〇枚単位で取引しますので七〇万円になります。七〇万円都合できませんか。」、「今がチャンスですよ。私の別のお客さんなんか、先週だけで倍以上儲けてますよ。」などと述べたが、原告は「金もないし投資をする気もありませんよ。」と答えた。

(三)  八月一日ないし二日ごろ、被告石坂は原告に対し架電し、「先日はどうも時間をいただきありがとうございました。どうですか。七〇万円なんとかなりませんか。」と述べたが、原告が「そんな金ありませんし、やる気もありません。」と断ると、被告石坂は上司である被告井野川にかわり、同被告はさらに「半分の三五万円はどうですか、ありませんか。」といって原告を勧誘したが、原告はその勧誘も断った。

(四)  八月三日午後五時ごろ、被告北山は原告に対し架電し、「石坂の上司の北山と申します。石坂の方からいろいろと話をきいてもらっていると思いますがどうですか、石坂もまだ若いですがよく勉強して一生懸命やっていますのでどうですか、取引してくれませんか、今はチャンスですよ、投資の勉強をすると思って一緒にやってみませんか。」などと、約四、五〇分の間勧誘した後、「一度会って話をした方が納得が行くと思いますので、どうですか、今から行きますので待っててください。」と述べ、原告と面談することとなった。

(五)  その後、同日午後六時ごろ、被告北山は、同井野川とともに、澤商の近くの喫茶店で原告と面談をしたがその際、被告北山と同井野川は、原告に対し、被告会社の説明や原告の出身大学のある千葉県についての話をしたり、右被告らにおいて図(〈証拠〉)を書いたり異常気象の話をするなどして大豆取引の仕組みについて説明して大豆取引の勧誘をしたが、原告が「私は資料もないし、情報源もないのでやりようがありません。」といったのに対し、被告北山は「それなら任せておいてください、うまくやりますよ。」と答えた。

そして、右面談の際、原告は、被告北山ないし同井野川から、受託契約準則等が記載されている「契約書類」と題する書面や「商品取引委託のしおり」と題する書面を交付され、被告会社との間で、大阪穀物取引所の商品市場における売買取引の委託をするについては、被告会社から交付された同取引所の定める受託契約準則の規定を遵守して売買取引を行うことを承諾する旨記載された承諾書と題する書面(〈証拠〉)に署名押印し、被告会社との間で先物取引を委託する旨の契約を締結した。

以上の事実が認められ、〈証拠〉のうち、右認定に反する部分は、前記認定に供した各証拠に照らし、措信することができず、他に右認定に反する証拠はない。

三  本件先物取引の経緯について(取引の開始から終了まで)

1  八月四日、朝、被告北山が原告に電話したこと、原告主張の建玉がされたこと、八月五日、八月八日及び八月九日、それぞれ原告主張の建玉がされたこと、八月一〇日、被告北山が原告主張の利益金を交付したこと、原告が砂糖取引の承諾書を八月八日付けで書いたこと、八月一一日、被告北山が原告主張の日時ごろ、原告に対し電話したこと、その際、原告に六〇万円を納金して欲しい旨伝えたこと、原告主張の建玉が手仕舞されるまで二か月以上の期間が経っていること、その手仕舞によって八六万九〇〇〇円の損金がでていること、八月一二日、原告主張の日時ごろ、被告北山が原告に対し電話をし、その際、被告北山が保証金六〇万円の用意ができたかを確認したこと、原告が一二時三〇分ごろに右金員を手渡しできると述べたこと、右時刻ごろ、原告が訴外森戸健に六〇万円を渡したこと、さらに、夕方、原告が被告北山に対し澤商の前の路上で駐車中の車の中で六〇万円を渡したこと、この日初めて両建されたこと、八月一五日、原告主張の建玉がされたこと、八月一六日、原告主張の建玉がされたこと、原告主張の損が発生し、手数料を要したこと、八月一七日、原告主張の建玉がされたこと、原告主張の損が発生し、手数料を要したこと、八月一八日及び八月二〇日、それぞれ原告主張の建玉がされたこと、八月二三日、被告北山が原告に対し、大豆がストップ高であることを報告したこと、原告主張の建玉がされたこと、八月二四日、夕方、原告は被告北山に七〇万円を手渡したこと、八月二五日、被告北山が原告に対し電話をし、大豆はあまり値上りしないので買建玉を手仕舞してはどうかと勧めたこと、原告主張の建玉がされたこと、八月二六日、八月二九日及び八月三〇日、それぞれ原告主張の建玉がされたこと、八月三一日、原告主張の建玉がされたこと、原告指摘の建玉の手仕舞によって一〇四万円の損金がでたこと、九月七日、原告主張の建玉がされたこと、九月八日、原告主張の建玉がされたこと、原告主張の利益、損が発生し、手数料を要したこと、九月一二日、原告主張の建玉がされたこと、原告主張の利益、損が発生し、手数料を要したこと、九月一三日及び九月一四日、それぞれ原告主張の建玉がされたこと、九月一六日、被告北山が原告に対し電話をし、精糖が値下げ模様であることを報告したこと、原告主張の建玉がされたこと、原告主張の利益、損が発生し、手数料を要したこと、九月一七日、九月一九日、九月二〇日及び九月二二日、それぞれ原告主張の建玉がされたこと、九月二六日、原告主張の建玉がされたこと、原告主張の利益、損が発生し、手数料を要したこと、九月二七日、被告北山が原告に対し電話をし、大豆が値下り状況であることを報告したこと、原告主張の建玉がされたこと、九月二八日、原告主張の建玉がされたこと、原告主張の損が発生し、手数料を要したこと、九月三〇日及び一〇月五日、それぞれ原告主張の建玉がされたこと、一〇月六日、被告北山が原告に対し電話をし、保証金が一枚当たり七万円から八万円になり損益勘定を含め一二〇万円を渡したこと、原告主張の建玉がされたこと、原告主張の手数料を要したこと、一〇月七日、原告主張の建玉がされたこと、一〇月一一日、原告主張の建玉がされたこと、原告主張の利益、損が発生し、手数料を要したこと、一〇月一三日及び一〇月一四日、それぞれ原告主張の建玉がされたこと、一〇月一五日、原告主張の建玉がされたこと、原告主張の利益、損が発生し、手数料を要したこと、一〇月一九日、原告主張の建玉がされたこと、原告代理人から全建玉の手仕舞が指示されたこと、一〇月二〇日、右指示によって、原告の全建玉が手仕舞されたことは、当事者間に争いがない。

2  右争いのない事実と、〈証拠〉に弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。

(一)  原告と被告北山らとの取引経緯

八月四日

前日の別れぎわに、大豆二〇枚の売買委託をするための証拠金一四〇万円を原告が被告北山に交付することとなっていたので、八月四日朝、被告北山から原告に対し金がいつ用意できるのかの問合せの電話があり、原告が昼休みまでに用意しておく旨答えると、被告北山は、「一四〇万円(二〇枚)では少ないので、七〇万円の五倍である三五〇万円(五〇枚)ありませんか。その方が運用し易い。利益が出たら最初に預けた三五〇万円は返してもいいですから。」と述べ、原告はなんとかする旨答えた。午後零時半ごろ、原告は、澤商の近くの喫茶店で被告北山に代ってやってきた被告井野川に対し、三五〇万円を手渡した。その際、右喫茶店において、被告北山から被告井野川に対し電話があり、朝から大豆の値上りがあり利益がでているとの原告に対する伝言があった。喫茶店を出てから公衆電話で被告井野川が被告北山に対し電話をし、原告に電話をかわったところ、被告北山は原告に対し、取引の礼を述べたあと、「午後になり下りはじめたのでにげておきましたから。」などと述べ、原告はその意味はわからなかったが、被告北山から「まかせておいて下さい。」といわれていたこともあり、「そうですか。預けた三五〇万円の範囲でお願いします。」と述べた。

同日被告北山は、大豆三〇枚(大豆1)を買建てして即日仕切り、さらに三〇枚(大豆2-1、2-2、3)を買建てしている。

八月六日

被告北山は、大豆一〇枚(大豆4)を買建てした。

八月八日

午後、被告北山から原告に対し、砂糖がチャンスだから大豆から一〇枚ほど移して買った(砂糖1の建玉)旨の電話があり、「砂糖は大豆と連動しているから上がりますよ。」などと述べたので、原告は、それならいいだろうと思い了承した。

被告北山は同日、後場二節で大豆4を五二一〇円で仕切り、後場一節で大豆一〇枚(大豆5)を五二〇〇円で買建てした。

八月九日

被告北山は、大豆一〇枚(大豆6)を買建て、砂糖1を仕切った。

八月一〇日

午前中、被告北山から原告に対し、大豆の利益金が出たので預り証と印鑑をもってくるようにとの電話があったので、原告は澤商の近くの喫茶店で被告北山から二七万五〇〇〇円を受け取ったが、その際、原告は、被告会社に対し大阪砂糖取引所の商品市場における売買取引の委託をするについては、被告会社から交付された同取引所の定める受託契約準則の規定を遵守して売買取引を行うことを承諾する旨の承諾書と題する書面(〈証拠〉)に八月八日付けで署名押印した。

八月一一日

午前中、被告北山から原告に対し電話があり、「砂糖が上がりますので六〇万円用意して下さい。」などと述べ、原告は了承した。

被告北山は、同日砂糖一〇枚(砂糖2)を買建てした。

八月一二日

午前中、被告北山から原告に対し、「昨日お願いした六〇万円を用意できましたか。」との電話があり、原告は「昼には何とかなります。」と答えた。そして、原告は、一二時半ごろ、澤商の近くの喫茶店において、被告北山のかわりにきた森戸健に六〇万円を手渡したが、その際、右森戸は原告に対し、「大豆三五〇万円、砂糖六〇万円ですね。」と、金額の確認をしたうえ、砂糖の分が六〇万円足りない旨述べた。同人は、「六〇万円で一〇枚昨日買いましたが、今日になって、ストップ安になったので売りを一〇枚建てておいたのでその分が足りない。砂糖はよく続くので北山が売りを建てていたのです。しかし、こういうときは売りに殺到するので抽選になるから当たらないかもしれないので電話の時は話さなかったのです。」などと説明した。

その後、被告北山から原告に対し「森戸から聞いてもらったと思いますが、急にストップ安になりまして、砂糖はストップ安がくると連続することがあるので、損をしないように、危険防止のため売りを建てておいた(砂糖3)のです。保険のようなものです。いつごろできますか。夕方までには何とかなりますか。」などと述べ、証拠金六〇万円の支払いを要求したので、原告は夕方までに用意する旨答え、午後五時ごろ、被告北山に証拠金六〇万円を手渡した。

八月一五ないし一七日

八月一三日から同月一七日まで盆休みで原告は群馬県の実家に帰省していたが、その間に被告北山は、同月一五日、大豆6を仕切り、大豆一〇枚(大豆7)を売建てし、同月一六日、大豆3(五一九〇円で買建てしたもの)を五二三〇円で、大豆5(五二〇〇円で買建てしたもの)を五二三〇円で仕切り、その結果大豆3については手数料七万五〇〇〇円を差引くと二万五〇〇〇円が残ったが大豆5については手数料を差引くと益は残らなかった。さらに被告北山は、同月一七日、大豆一〇枚(大豆8)を買建てし、これは大豆7の売建玉と両建てとなっている。

八月一八日

被告北山は大豆7を仕切った。

八月二〇日

午前中、被告北山から原告に対し、「大豆は下がるところまで下がった。大豆の値下りもストップですよ。ここは買いしかないですよ。」との電話があり、原告は「そうですか。」と答えた。

被告北山は同日大豆一〇枚(大豆9)を買建てし、砂糖3を仕切った。

八月二三日

午前中、被告北山から原告に対し、「今日は大豆はストップ高ですよ、底はついたので余裕があれば買いたいですね、ありませんか。」と述べたので、原告は「七〇万円ぐらいならなんとかなります。」と答えた。

被告北山は、砂糖一〇枚(砂糖4)、同二〇枚(砂糖5)を買建てしている。

八月二四日

原告は被告北山に対し、証拠金として七〇万円を手渡した。

八月二五日

午前中、被告北山から原告に対し電話があり、「大豆が思ったより値上りしないので売りましょう。」と述べたので、原告は「もう少し様子をみてください。」と答えた。

それにもかかわらず被告北山は、大豆2-1、同9を仕切り、砂糖5(二一〇円八〇銭で買ったもの)を二一一円九〇銭で仕切り、砂糖一〇枚(砂糖6)を二一〇円八〇銭で、砂糖一〇枚(砂糖7)を二一二円九〇銭で買建てした。

八月二六日

午前中、被告北山から原告に対し電話があり、「大豆は値上りしませんよ。売った方がいいですよ。今売れば前に買ったやつが処分できますから。」などと述べたので、原告は了承する旨答えた。

被告北山は大豆8を仕切り、大豆一〇枚(大豆10)を売建て(大豆3に対する両建てである)、砂糖4を仕切り、砂糖二〇枚(砂糖8)を買建てた。

八月二七日

午後、原告から被告北山に対し電話をし、被告会社から送付されてくる委託売買計算書の損益状況に関する計算が合わないので一度調べて欲しい旨依頼し、大豆について、少し様子を見るために新規の売買を控えるように告げた。

八月二九日

被告北山は大豆2-2を仕切った。

八月三〇日

午後、被告北山から原告に対し、「砂糖は九月一〇〇万円ぐらいとれますよ。大豆は様子を見ましょう。」との電話があった。

被告北山は砂糖6及び砂糖8を仕切り、砂糖三〇枚(砂糖9)を買建てした。

八月三一日

被告北山は砂糖7を仕切り、砂糖一〇枚(砂糖10)を買建てした。

九月七日

午後、被告北山から原告に対し、「砂糖は様子がおかしいので少し損がでますが処分しますから。」との電話があった。

被告北山は砂糖9を仕切り、大豆一〇枚(大豆11)を売建てした。

九月八日

午後六時半ごろ、被告北山が澤商にいる原告を訪ね、大豆と砂糖の委託者別委託先物取引勘定元帳(〈証拠〉)を原告に手渡し、委託売買計算書につき、砂糖と大豆とで金額のやりとりがあるので数字があわないところがある旨の説明をし、さらに、「今日、砂糖二〇枚、大豆二〇枚を新規に売っておいた。」旨告げた。

すなわち、被告北山は、同日大豆12、同18を売建てし、砂糖二〇枚を売建てし(二一三円四〇銭。砂糖11)、即日二一三円二〇銭で仕切り、さらに砂糖一〇枚(砂糖12-1)、同一〇枚(砂糖12-2)を売建てした。

九月九日

午後、被告北山から原告に対し電話があり、「大豆がストップ高です。週明けに米農務省の発表がでますが大幅減産予想はまちがいないのでまたストップ高がくる可能性があり、最終五八〇〇円ぐらいまであがると思われます。昨日売りを建てた分と前々からの売りの分合計三〇枚に追証がかかる恐れがあります。」と述べた。

九月一二日

午後、被告北山から原告に対し電話があり、「今日は一服していますが、明日の農務省発表によってはまたストップ高がくる恐れがあるので、砂糖と仕切って一〇枚分は買いを建てておきましたが、あと二〇枚分一四〇万不足なので用意して下さい。」と告げたので、原告は、「急に言われても集めてみなければわかりませんが、明日までに何とかします。」と答えた。

被告北山は砂糖12-1、同12-2を仕切り、砂糖一〇枚(砂糖13)を買建てし、大豆一〇枚(大豆14)、同二〇枚(大豆15)を買建てしたが、右大豆は大豆10、同12、同13に対する両建てである。

九月一三日

午後、被告北山から原告に対し、「お金の方はどうですか。」との電話があったので、原告は、「何とかしていますので、夕方にはどうにか。」と答えた。夕方、被告北山が澤商まで車できたので、原告は、右車中において、被告北山に対し、一四〇万円を手渡した。

被告北山は、同日、砂糖一〇枚(砂糖14)の買建てをした。

九月一四日

午前中、被告北山から原告に対し、「砂糖はもう底をついたようです。月末は砂糖は上がりますよ、七月も八月も高かったですから。」との電話があった。

被告北山は大豆14、同15を仕切り、大豆一〇枚(大豆16)、大豆二〇枚(大豆17)をそれぞれ買建てし、また砂糖14を仕切り、砂糖一〇枚(砂糖15)を買建てした。

九月一六日

午前中、被告北山から原告に対し、「砂糖が上がらず下がる様子なので多少損がでますが仕切っておきます。」との電話があった。

被告北山は、同日、砂糖13及び同15を仕切り、砂糖一〇枚(砂糖16)を二〇八円で売建てし、即日二〇七円九〇銭で仕切り(九〇〇〇円の益が出たが、八万六〇〇〇円の手数料が必要なため損勘定となった)、さらに砂糖一〇枚(砂糖17)を売建てした。砂糖16、同17は砂糖2、同10の両建玉である。

九月一七日

被告北山は、同日、砂糖17(二〇九円四〇銭で売建てしたもの)を二〇八円六〇銭で仕切った(七万二〇〇〇円の益が出たが手数料八万六〇〇〇円をとられて損勘定となる)。

九月一九日

被告北山は、砂糖一〇枚(砂糖18)を売建てした。

九月二〇日

被告北山は砂糖18を仕切った。

九月二二日

午前中、被告北山から原告に対し、「大豆は来週暴落しますよ、買いを処分しますので。」との電話があったので、原告は、「そうですか、売ったらまた買わずにそのまま様子を見て下さい。」と答えた。

被告北山は、同日、大豆16、同17を仕切った。

九月二六日

午後、被告北山から原告に対し、「大豆はもう一度上へくるようなので、買いを建てておきましたから。」との電話があった。

被告北山は、同日、大豆一〇枚(大豆18)、同二〇枚(大豆19)、同一〇枚(大豆20)の買建てをし、大豆18を即日仕切ったが、益七万五〇〇〇円は同額の手数料が必要なので結局益は出なかった。

また被告北山は、同日、砂糖一〇枚(砂糖19)を買建てした。

九月二七日

午後、被告北山から原告に対し、「大豆は今日も安いです。」との電話があったので、原告は、「やっぱり、そうですか。」と答えた。

被告北山は、同日、大豆19を仕切り、大豆一〇枚(大豆21)を売建てし、即日仕切った。

九月二八日

午後、被告北山から原告に対し、「砂糖がなかなか上がらないですね。でももう底をついたので一〇月は上がりますよ。砂糖は上がりだすと一〇円ぐらいすぐですから。」との電話があった。

被告北山は、同日、大豆二〇枚(大豆20)を買建てした。

九月三〇日

被告北山は、大豆12を仕切り、砂糖19を仕切り、砂糖二○枚(砂糖20)を買建てした。

一〇月五日

被告北山は、大豆一〇枚(大豆23)を五二一〇円で買建てし、即日五二四〇円で仕切り(益が七万五〇〇〇円出たが、同額の手数料を要するために益にはならなかった)、大豆一〇枚(大豆24)を売建てした。

一〇月六日

午後、被告北山から原告に対し、「証拠金が七〇万から八〇万になったので金額不足になっている。それと損金の不足分で合計一二〇万必要なので、来週でいいので用意して下さい。」との電話があった。

被告北山は、同日、大豆24を売り買い同値で仕切り(手数料七万五〇〇〇円が損となる)、さらに大豆一〇枚(大豆25)を買建てした。

一〇月七日

被告北山は、大豆一〇枚(大豆26)、同一〇枚(大豆27)を買建てし、同一〇枚(大豆28)の売建てをした(同時両建)。

一〇月一一日

午前中、被告北山から原告に対し、「お金できましたか。」との電話があったので、原告は、「まだですが夕方になります。できたら電話します。」と答え、午後、原告は被告北山に対し、「できましたので四時三〇分ごろきてください。」と電話し、その後、午後四時三〇分ごろ、被告北山に対し、一二〇万円を手渡した。

被告北山は、同日、大豆28を仕切った。

一〇月一二日

被告北山は、大豆25、同26、同27を仕切り、大豆一〇枚(大豆29-1)、同一〇枚(大豆29-2)、同一〇枚(大豆30)を売建てし、砂糖20を仕切り、砂糖一〇枚(砂糖21)を売建てし、砂糖一○枚(砂糖22)を二一一円六〇銭で売建てし、即日二一一円四〇銭で仕切った(益が一万八〇〇〇円出たが、八万六〇〇〇円の手数料を要するため損勘定となっている)。

一〇月一三日

被告北山は砂糖21を仕切り、砂糖一〇枚(砂糖30)を売建てした。

一〇月一四日

被告北山は、大豆30を仕切り、大豆一〇枚(大豆31)を買建てした。

一〇月一五日

被告北山は、大豆29-1を仕切り、五三一〇円で買建てした大豆31を買建てをした翌日五三二〇円で仕切り(益が二万五〇〇〇円出たが、手数料七万五〇〇〇円で損勘定となる)、砂糖23を仕切った。

一〇月一八日

原告は、被告会社との本件先物取引につき、原告代理人である岩本雅郎弁護士に相談した。

一〇月一九日

被告北山は砂糖一〇枚(砂糖24)を売建てした。

同日夕方、岩本雅郎弁護士は、電話で被告会社に対し、全取引を手仕舞うように指示した。

一〇月二〇日

被告会社は、右指示に従い全取引を手仕舞った。

(二)  結局、原告は被告会社に対し、右(一)記載の経過により、別表(一)のとおり昭和五八年八月四日から同年一〇月一五日までの間に輸入大豆の先物取引を、別表(二)のとおり昭和五八年八月八日から同年一〇月二〇日までの間に輸入精糖の先物取引をそれぞれ委託し、被告会社に対し、本件先物取引の証拠金として合計八〇〇万円を交付した。

(三)  被告会社は、原告に対し、本件先物取引に基づく具体的な取引の都度、原告に関する委託売買報告書および計算書を送付しており、原告は具体的な取引について異議を述べたことはなかった。

以上の事実が認められ、〈証拠〉のうち、右認定に反する部分は、前記認定に供した各証拠に照らし、措信することができず、他に右認定を左右するに足りる的確な証拠はない。

四  本件先物取引の違法性について

1  請求原因3(一)のうち、原告主張の法、指示事項、規則が存することは当事者間に争いがない。

右争いのない事実と〈証拠〉と弁論の全趣旨によれば、商品先物取引がきわめて投機性の高い取引であって、その特殊性、危険性に鑑み、商品取引所法等により種々の規制がされていることが認められる。

(一)  法上、利益を生ずることが確実であると誤解させるべき断定的判断を提供して勧誘すること、価格、数量その他の事項について顧客の指示を受けないで委託を受けることなどが禁止されている。

(二)  全国の商品取引所が昭和四八年四月に行政当局の要請を受けて、商品取引員に対して禁止すべき行為として指示したのが「商品取引員の受託業務に関する指示事項」であり、次のようなものがある。

(1) 新規委託者の開拓を目的として、面識のない不特定多数者に対して無差別に電話による勧誘を行うことを禁止する。

(2) 先物取引に関し、「投資」、「利子」、「配当」等の言辞を用いて、投機的要素の少ない取引であると委託者が錯誤するような勧誘を行うことや委託追証拠金についての説明をしないで勧誘を行うことを禁止する。

(3) 短日時の間における頻繁な建て落ちの受託を行い、又は既存玉を手仕舞うと同時に、あるいは明らかに手数料稼ぎを目的とすると思われる新規建玉の受託を行うこと、例えば既存建玉を仕切ると同時に新規に売直し、又は買直しを行うことや、同一計算区域内において、委託手数料幅を考慮していないと思われる建て落ちを繰り返すことなどを禁止する。

(4) 同一商品、同一限月について、売又は買の新規建玉をした後(又は同時)に、対応する売買玉を手仕舞せずに、委託者に損勘定に対する感覚を誤らせて損害を拡大させるおそれの強い両建玉をするように勧めることを禁止する。

(三)  昭和五三年三月二九日の商品取引員全国大会において成立した新規委託者保護管理協定は、新規委託者に対して商品取引に関する知識、理解度及び資力等を勘案し適正に売買取引が行われるように助言し保護するため、一定の保護育成期間及び受託枚数の管理基準等を設けること等を行うものとし、各商品取引員に対し、右内容の新規委託者保護管理規則を定めて遵守することを求めており、これを受けて被告会社においても、新規委託者保護管理規則を定めるとともに、新規委託者の受託枚数の制限について新規委託者に係る売買枚数の管理基準を定め、新規委託者(保護育成期間は三か月)の建玉枚数は原則として二〇枚以内とし、新規委託者から特に二〇枚を超える建玉の要請があった場合においてはその妥当性について適確に審査し、妥当と認められる範囲内において受託するものとしている。

2  右の各規定は、取締法規又は商品取引員ないしその相互間の内部的取決めではあるけれども、商品先物取引がきわめて投機性の高い特殊な取引であって、取引をする一般大衆が損失を被る危険性が大きいため、商品取引の適正の確保をすることにより委託者が不測の損害を被らないように保護育成していくために定められているものであるから、委託者に対する関係においても注意義務の内容を構成するのものであって、右各規定の違反の程度が著しく、商品先物取引上相当性を欠くような態様における勧誘、受託業務の実施がされた場合には、その行為は不法行為を構成するものというべきである。

3  これを前記二及び三において認定した事実について検討すると、被告会社の従業員らの本件先物取引の勧誘行為や受託業務の実施には、次のような違法性が存することが認められる。

(一)  被告石坂は、無差別電話勧誘を行い(二2(一))、利益を生ずることが確実であると誤解させるようなかなり断定的な判断を示して取引を勧めており(二2(二))、被告北山は、「投資の勉強をすると思って一緒にやって貰えないか」などと投機性の少ない取引であると委託者が錯覚しかねないような言辞を用いて勧誘をし(二2(四))、しかも右被告らは原告が勧誘を断っているのに執拗に勧誘をした。

(二)  前記二2及び三2認定の事実(本件先物取引の経緯)によれば、原告は、取引開始にあたり被告北山から「まかせておいて下さいよ。うまくやりますから」といわれたこともあって、被告北山にまかせきりの態度をとっており、被告北山は、自らの判断で建玉したり仕切ったりして原告の事後承認を得ることが多く、事前に原告に情報を提供して建玉や仕切りを勧める場合も、先物取引の知識の乏しい原告は、被告北山の言いなりに、「そうですか」などと述べて了承することが多かったものと認められる。

〈証拠〉中には、本件先物取引のほとんどについて、原告からその都度の具体的な建玉あるいは仕切りの指示により被告会社において建玉あるいは仕切りをした旨の記載ないし供述があるが、先物取引の経験のない原告が、このように多数回にわたり、その都度自ら積極的に建玉あるいは仕切りの指示をしたとの供述ないし記載自体不自然の感を免れがたく、後記各事実と〈証拠〉に照らし措信しがたい。

(1) 〈証拠〉によれば、一〇月一九日の砂糖24の売建てについては、被告北山が先に処理して原告に事後承認を求めたものであることが明らかであるのにかかわらず、〈証拠〉には、あたかも原告が積極的に事前に建玉を依頼したように記載されている。

(2) 八月一五ないし一七日の取引につき、〈証拠〉中には、原告から被告北山に電話で各建玉及び仕切りの指示があった旨の記載ないし供述があるが、前記認定のように原告が、同月一三日から一七日まで群馬県に帰省していたものであり、原告本人はこの帰省期間中被告会社との連絡はなかった旨述べており、右供述は措信できる。

(三)  八月四日から一〇月二〇日までの取引状況は前記認定のとおりであって、当初から最後まで規則等の定める二〇枚を超える建玉がされており、最高は一四〇枚に及んでいるところ、規則に従い、被告会社の特別担当班等が、右二〇枚を超える建玉の要請に対し、その妥当性を審査したり、指導、助言等を行ったことを認めるに足りる証拠はない。

右のように被告会社は原告に対し、新規委託者保護管理規則の求める管理保護を行っていないものというべきである。

(四)  前記認定のとおり被告会社の従業員たる被告北山は、わずか二か月半の間に大豆につき三三取引、砂糖につき二五取引合計五八取引という頻繁な建て落ちの受託を行い、しかも取引では益がでたのにその益よりも手数料の方が大きいため結局差引損勘定になったり、益が残らなくなるものも多く、被告北山において手数料かせぎを意図していたのではないかと疑われる。

(五)  両建は、委託者にとっては、損勘定の認識を誤るおそれが強く、また反対建玉分の委託手数料を新たに負担しなければならない反面、受託者のとっては顧客との取引を継続して以後の建玉を期待することができ、手数料収入を確保できるなどの利点があるので、商品取引員ないしその外務員は、手数料取得のために両建の意味について委託者を誤導して勧誘することにつながりやすく、そのため指示事項において禁止されている。

ところが本件においては、同時両建がされ(一〇月五日に大豆23の買建と大豆24の売建。同月七日に大豆26、同27の買建と大豆28の売建)、因果玉の放置(引かれ玉を手仕舞せずに反対建玉を行い、その後の相場変動により利の乗った建玉のみを仕切り、短日時の間に再び反対建玉を行うこと)がされ(大豆については、大豆20、同22がこれにあたり、大豆21、同24、同28、同29-1、同29-2、同30の売建玉を連続的に両建てしている。砂糖について砂糖2、同10がこれにあたり、砂糖3、同11、同12-1、同12-2、同16、同17、同21、同22、同23、同24等の売建玉による両建てがされている)、また大豆については、八月一五日から一八日まで、同月二六日から同月二九日まで、九月一二日から二二日まで、同月二六日から一〇月二〇日まで、砂糖については八月一二日から同月二〇日まで、九月八日から同月一二日まで、九月一六日から同月一七日まで、九月一九日から同月二〇日まで、一〇月一二日から一五日まで、一〇月一五日から同月二〇日までそれぞれ常時両建がされており、この結果原告の損勘定に対する感覚を誤らせ、被告会社は多額の手数料を原告から収取している。これらの取引は被告北山の勧めにより原告が行い、あるいは被告北山が原告の事後承認によって行ったものである。

五  被告らの責任

1  被告石坂、同北山、同井野川の責任

(一)  被告石坂は、昭和五八年七月二九日から八月三日までに、電話と面談により原告に対し本件先物取引を勧誘したものであるが、先ず無差別電話勧誘を行った上、先物取引について必ずしも十分な知識をもっていなかった原告に対し、先物取引が投機的な経済行為であって短期間に巨額な損を被ることがあることや先物取引の内容、仕組等につき十分な説明をせず、かえって、「三年前のセントヘレンズ火山の噴火のときも大幅の減産で大豆の値段が暴騰したのです。ですから、今年もまちがいなく値が上がりますよ。」「今がチャンスですよ。私の別のお客さんなんか、先週だけで倍以上儲けてますよ。」などと利益を生ずることが確実であると誤解させるような断定的判断を提供し、さらに同被告の勧誘を拒絶する原告に対し、執拗な勧誘を繰り返し、そのため、原告に本件先物取引によって容易に多額の利益を獲得し得るものとの誤解を与えるに至っている。してみると、被告石坂は、顧客である原告が、先物取引の危険性を十分理解していたとはいえなかったにもかかわらず、先物取引の危険性に対する原告の無理解に乗じ、容易に多額の利益を獲得し得るものとの誤解を与えるような言辞で本件先物取引につき執拗に勧誘するなどしたものであって、その勧誘は、社会通念上相当と認めらる範囲を逸脱したものと解せられる。

(二)  被告北山は、(1)先物取引についての知識が十分なく、先物取引を実際に行ったこともなく、取引開始に不安をいだき契約を躊躇していた原告に対し、先物取引の危険性について十分な説明をせず、「投資の勉強をすると思って一緒にやってくれませんか。」とか「任かせておいて下さい。うまくやりますよ。」と述べて、被告北山らに任せておけば、商品取引によりほぼ確実に利益が得られるものと原告を誤解させるような勧誘をし、(2)取引開始後わずか二か月半の間に多数回にわたり多量の売買(大豆三三取引、砂糖二五取引、合計五八取引)を委託させ、前記の取引開始の経緯から被告北山にまかせきりの態度をとっていた原告に対し、ほとんどが事後報告をするのみであり、建玉数も新規委託者保護管理協定(規則)の保護育成期間の取引であるのに二〇枚を大きく超えるものであり、さらに無意味な反覆売買や両建てを行ったものであって、業務委託の実施面においても、法、指示事項、協定(規則)に反する行為をしたものであって、(3)結局被告北山の(1)(2)の行為は、商品先物取引上相当性を欠き、社会的に許容される限度を逸脱したものであって違法と断ぜざるを得ない。

(三)  被告井野川は、八月一日ないし二日ごろ、被告石坂の原告に対する執拗な電話による勧誘に加担し、さらに、八月三日、被告北山とともに、原告と面談し、被告北山の違法な勧誘に加担しているものであって、被告井野川の右行為もまた違法というべきである。

(四)  そして、以上の被告石坂、同井野川及び同北山の、本件先物取引における勧誘から手仕舞までの全過程を一連のものとしてみれば、右各被告らの行為は、所定の役割分担のもとに、被告会社名古屋支社における商品先物取引受託業務を共同して遂行しているものであって、右各行為の間には客観的共同性が認められ、全体として違法であると解され、少なくとも過失によって原告に後記損害を与えたというべきであり、右被告らの一連の行為は、全体として原告に対する共同不法行為になるものと考えられる。

2  被告小島の責任

原告は、被告らがいわば会社ぐるみで前記のような違法行為を行った旨主張するが、本件全証拠によるも右事実を認めるに足りない。

また民法七一五条二項により、法人の代表者がいわゆる代理監督者として責任を負うためには、現実に被用者の選任、監督を担当していたことが必要と解されるところ、被告小島は、被告会社の代表取締役ではあるが、同被告が現実に被告北山、同井野川及び同石坂の選任、監督を担当していたとの点については本件全証拠によってもこれを認めるに足りない。

よって原告の被告小島に対する請求は理由がない。

3  被告会社の責任

被告会社は、被告石坂、同井野川及び同北山の使用者であり、右被告らが、被告会社の業務の一環として前記1記載の行為をした結果、原告に対し、後記損害を与えたのであるから、被告会社は、使用者として民法七一五条一項により、原告の被った後記損害を賠償する責任がある。

六  原告の損害

1  請求原因5(一)(1)(2)の事実は当事者間に争いがなく、原告が本件先物取引によって被った財産的損害は合計六〇五万九〇〇〇円と認められる。

2  原告は、本件先物取引によって精神的苦痛をうけたとして慰謝料として一〇〇万円の請求をするが、財産上の損害について財産的被害の回復をもってはなお回復しえない精神的損害があるとすれば、それは特別な場合であり、右特別な場合にあたることの主張立証がなければならない。本件においては、先に認定した事実から未だその特別な事情の存在は認められないから、原告の慰謝料請求は認めることができない。

3  原告が、本件訴訟代理人らに本訴の追行を委任し、報酬の支払いを約したことは、弁論の全趣旨により明らかであり、本件事案の性質、審理経過、後記認容額等に鑑みると、原告の負担する弁護士費用のうち、四〇万円を被告らに負担させるのが相当である。

七  過失相殺

前記一ないし三認定の事実によれば、原告は、本件先物取引の開始に当たり被告北山から交付された「商品取引委託のしおり」を十分に検討し、先物取引が投機性の高いもので、それ相応の専門的知識や経験がなければ時として大きな損害を被ることがあることを容易に知るべきであったのに、被告北山の「まかせておいて下さい。うまくやりますよ。」などという勧誘の言葉を漫然と信じ、ほとんど被告北山のいうがままに被告会社に対して本件取引の委託をし、また、被告会社から売買取引の都度その報告書兼計算書が送付されてきたのであるから、それによればやがて大きな損失になるかも知れない取引がされていることや自分が建てている玉がどう処理されているかについて容易に知り得るはずであったのに、被告会社に対し少なくとも正式に異議を述べることもしなかったのであり、原告のこのような態度が損害の発生及び拡大に重大な原因を与えたということができる。

したがって、原告の損害のうち、五割を原告自身の過失によるものとして相殺するのが相当と認められ、前記六記載の原告の被った財産的損害である六〇五万九〇〇〇円からその五割を控除した三〇二万九五〇〇円が、前記被告らの賠償すべき財産的損害額である。

もっとも、原告は本件において過失相殺をすべきではないとし、その根拠を縷々主張するけれども、過失相殺の制度は、損害の発生ないし拡大について被害者にも落ち度があった場合、損害の公平、妥当な分担を実現するとの見地から賠償額を定めるにあたって被害者の過失(落ち度)を考慮し事案に即した解決を図る制度であるところ、本件において原告に損害の発生及び拡大につき落ち度があったことは前記認定のとおりであり、原告の右主張について十分考慮しても前記の過失割合を相当とするものと解する。

八  結論

以上によれば、被告石坂、同井野川、同北山及び被告小島商事株式会社は、原告に対し、前項の三〇二万九五〇〇円及び弁護士費用四〇万円の合計三四二万九五〇〇円並びに本件不法行為の日の後で被告らへの本件各訴状送達の日の翌日以降であることが記録上明らかな昭和五九年五月一三日から支払済みに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。

よって、原告の被告石坂、同井野川、同北山及び被告会社に対する請求は、右の限度で理由があるから認容し、その余は棄却し、被告小島に対する請求は理由がないので棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行宣言につき同法一九六条を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岡崎彰夫 裁判官 鎌田豊彦 裁判官 見米 正)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例